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日本におけるフィルタリング・ソフト導入のいま
〜浦安市立中央図書館を訪ねて〜
(東京大学大学院教育学研究科・中村百合子)
これまで連載6回で、図書館の利用者用インターネット端末へのフィルタリング・ソフト導入の理念的な 問題やソフトの技術上の限界などについて論じてきた。ただ日本の図書館における利用者用インターネット 端末提供ははじまったばかりで、フィルタリング・ソフト導入の問題も議論されはじめたばかりである。 したがって、多くの図書館員にとってはまだそれほど現実味をおびてきていないようなところもある のではないだろうか。しかし、一部の利用者用インターネット端末の提供をはじめた図書館では、 やはりフィルタリング・ソフトは必ず何らかの形で議論にのぼっているようである。今回・次回の2回に わたって、利用者用インターネット端末の導入において先進的な取り組みを行っている図書館を訪ね、 端末提供の状況とフィルタリング・ソフトへの対応について聞き、報告する。今後、利用者用 インターネット端末導入をすすめる図書館で参考になるような担当者の貴重な体験談が報告できるだろう と思う。


浦安市立中央図書館における利用者用インターネット端末の提供

浦安市立中央図書館は日本でもっとも有名な公共図書館のひとつであろう。利用者数・貸出数などの高さは有名だが、 もちろんそれだけではなく、司書資格を保持した専門職司書を採用して積極的にさまざまなサービスを 提供してきている。そして2001年7月に、多くの他の公共図書館に先駆けて利用者用インターネット端末の 導入を実現した。
 図書館としてインターネット情報へのアクセス・ポイントの提供として、利用者用インターネット端末の 提供が必要であるとの判断によって行われることとなった。そのため、基本的に掲示板、チャット、メールと いった書き込み系の利用は禁止して、もっぱら情報収集のための利用に限っている。館内でのインターネット へのアクセスの提供は、次の3つの方法で行われている。

(1)カウンター横のOPAC端末近くに設置されたデスクトップ・コンピュータ4台。

  ☆カウンターで利用を申し出
   (予約はできないため4台がふさがっていれば並んで待つ)、
  ☆身元確認を受け(市内在住・在勤・在学でなくとも利用可能)、
  ☆利用規約の提示・説明を受けたうえでマウスを受け取って利用する。
   利用は基本的に30分だが延長可能。

(2)レファレンス・デスクから借り出すポータブル(無線LAN接続)コンピュータ8台。
      無線LANの届くカウンターのある部屋を中心に自由に利用できる。

  ☆レファレンス・デスクで利用を申し出、
  ☆図書館利用券(カード)を提示して市内在住・在勤・在学者としての確認を
   受けたうえで利用規約の提示・説明を受け、
  ☆利用申込書を提出すると端末とケーブル等が渡される。
   利用は基本的に1時間だが延長可能。

(3)開架書庫内の社会人席1階2階に各4台。利用者が自分で所有するパソコンを
 持ちこみ、LANケーブルを利用することができる(つまり回線のみの提供)。

  ☆書庫カウンターで利用を申し出、
  ☆図書館利用券を提示して市内在住・在勤・在学者としての確認を受け、
  ☆利用規約の提示を受ける。利用時間の制限は無い。


利用規約、利用申し込み、フィルタリング・ソフトの活用

 2001年1月に市から予算の内示が出ると、利用者用インターネット端末の7月導入が決まり、2月には 職員6名で構成されるインターネット・プロジェクト・チームが結成された。そしてすぐに、機器構成と サービスのガイドラインについて検討がはじめられた。機器構成は上記のように、デスク・トップと ポータブルなど、提供方法は3種類に決められた。しかし、サービスのガイドラインの決定にはもう少し 時間がかかった。
 インターネットは双方向性を持つメディアであり、その利用にあたっては自分が危険にさらされる可能性と 同時に、他者に危険を与える可能性もあることを利用者に認識してもらうべく、利用規約をつくり、 申込書を作成すべきだろうということが議論された。そこで、立川市や金沢市などの利用者用 インターネット端末提供の先行した図書館に問い合わせをして、両図書館が作成した簡単な規約を入手、 それに加えてアメリカのAUP(連載第6回を参照。利用ガイドラインのこと)をインターネットで集めて、 それらを参照しながら具体的な規約作成に着手した。結局作成された利用規約は、機器構成に合わせて3種類。共通し ているのは、端末提供の趣旨説明とも言える「利用の目的」で、「出版・流通及び、インターネット上にある 各種データベースのうち、調査研究に役立つ情報にアクセスするため」としている。あとは、利用の範囲、 利用対象、利用制限、利用時間など、それぞれの端末の提供方針を明文化している。

 ところで、市からの予算の内示があった際に、次の2点について市の情報化推進委員会の会議から 検討することを条件として提示された。それは、

 (1)回線、機器、補助金への申し込みは今後も随時検討し、
  よりよい提供を目指すこと、
 (2)フィルタリング・ソフトの導入を検討すること、

であった。フィルタリング・ソフトの導入については、インターネット導入が進む市立小・中学校でも 導入していることから進言された。図書館では、それにもとづいて検討がなされ、 不特定多数が使う公共の場の端末であるということを考えるとフィルタリング・ソフトの導入もやむなし との最終判断となった。そしてさまざまなソフトを検討し、市立小・中学校でも導入しているi-フィルター (デジタル・アーツ株式会社)を導入することとした。i-フィルターは、ブラック・リスト を基調に世界標準レイティングRSAC(日本では電子ネットワーク協議会(現インターネット協会)もこれに もとづいたレイティング・システムを開発・提供)を拡張した独自レイティング・システムとホワイト・ リストの機能も併せ持つ、しかも純日本産のソフトである。

 しかし、端末提供に向けて機器の動作確認をしている段階から、フィルタリング・ソフトの アクセス制限によるさまざまな不都合が専門職司書の目についた。なんと、司書が選んで図書館のHPの リンク集に加えたページのひとつもアクセス制限の対象となっていたのである。また、新聞記事データベース へのアクセスが制限される日もあり、その制限は不可解なことも多かった。必要なページが見られない場合 には、カウンターで職員用の端末からアクセスすることにしていたものの、やはりフィルタリング・ソフト の解除をすべきではないかとの意見が専門職司書の間からあがってくるのにそう時間はかからなかった。 以来約半年、話し合いを重ねた結果、デスクトップのうち2台からフィルタリング・ソフトを除くことに 決定し(それらの端末は児童には基本的に提供しないとしたうえで)、市の情報政策課に承認を求めた。 そして、つい先日了承を得たということである。


今後: 利用者教育へ

フィルタリング・ソフトにまつわるこれまでの決定は、すべて浦安市立中央図書館の専門職司書の判断 によって行われてきている。基本的に利用者からの苦情などは受けていないという。これが「 いかにも日本!」という感じがするというのが、筆者の訪問に対応してくださった主任司書の森田志織さん との一致した意見であった。つまり、日本では情報利用の権利意識よりも公序良俗といったことが 優先されるのではないか、ということである。
 だから、フィルタリング・ソフトの解除の検討にあたっても、「子どもの利用もあるのにフィルタリングも せずにいるのか?」という苦情が出た場合に公的機関として申し開きのできないのはまずい、ということが 重要になっているという(たぶんこれは、アメリカで言われるlose-to-loseの状況で、日本ではむしろ 親からの訴訟で親側が勝訴することの方があり得るのではないかということだ)。そこで今後浦安市立 中央図書館では、フィルタリングの解除に向けてという意味も含め、子ども向けにも図書館利用者教育 の講習会開催を検討するつもりだという。そしてそのなかで、インターネットの利用だけでなく、本、 OPACなどの他のメディアとその併用についての内容も盛り込みたいとのこと。浦安市立図書館では、 同図書館が目指すハイブリッド・ライブラリーの確立のための取り組みのひとつとして、成人向けにも OPACの利用法などに関する講習会を開いてきており、児童のために企画されつつある講習もその一貫と 捉えられている。楽しみな企画だが、学校図書館研究にも携わる私としては、 「学校図書館も頑張らないと!」と思わされる話でもあった。

 最後に、森田さん。私の訪問に対して、お時間をさいてご丁寧にフィルタリングについてお話いただき、 ありがとうございました。また、訪問と本報告の公開を快くお許し下さった常世田館長にも、 心より感謝申し上げます。